隠れキーマンから学んだ、組織におけるチームメンバーの役割【会社を辞めた話 第25話】

この記事の続きです。

【放置】暇すぎて苦痛……新人になって初めての仕事内容【会社を辞めた話 第24話】

 

1話目はこちらです。

新卒入社した一部上場企業を1年で辞めた話【会社を辞めた話 第1話】

 

ここに配属されて2週間。

最初に見えていなかったものがだんだんと見えてくるようになりました。

 

みんな忙しそうにしていると思っていたけど、別にそんなことはなかったこと。

課長はたまにしかオフィスに来ないこと。

業務はほぼ優秀な佐々木さんのおかげで進んでいること。

主任はみんながちゃんと仕事しているかチェックしているようだけど、その本人は暇を持て余しているということ。

そして、隣にいる山田さんは仕事に対するやる気があんまりないこと。

 

おのおののメンバーが互い違いにかけ合い、絶妙なバランスで今日のチームの平和が保たれているようでした。

 

マイペースな山田さん

マイペースで声が小さい山田さんは、いつも声がデカい主任に怒られていました。

 

「山田ァ!」

 

今日も山田さんは朝から主任に呼び出されています。

5分ほどして僕の隣の席に戻ってくると、眠たそうに目をこすっていました。

 

最近はというと、山田さんと僕は次の仕事が流れてくるまで待機して、佐々木さんから仕事が振り分けられたら作業を行うという流れになっていました。

 

そして僕らが暇そうにしていると、主任から呼び出されて社会人としてのイロハや会社で生き残っていくためのノウハウのような持論を語られて説教されるという構図も出来上がっていました。

 

そんなチームの中で、佐々木さんはひときわ目立つ、とても優秀で頼りになる存在でした。

仕事のことなら佐々木さんに聞けばなんでも知っているし、主任からも心強い存在であるようでした。

 

自ら仕事を主導して進め、山田さんと僕に仕事を振り分け、主任との世間話に花を咲かせているようすは、誰が見ても仕事ができて輝いてみえる存在でした。

 

ちなみに山田さんの歳は佐々木さんの1つ下です。

ほぼ同じ年齢で仕事の経験もほぼ同じ年数なのですが、なんでこんなに差があるんだろうなんてことを思っていました。

 

僕が山田さんに仕事のことを聞いても何もわかっていないようだし、やる気はなさそうだし、仕事もあまりできないように見えました。

いつしかそんな山田さんのことを、だから新人と一緒につまんない仕事をやるハメになっているんじゃないか、とさえ思うようになっていました。

 

佐々木さんが近くにいるせいか、比べるとどうしても山田さんの仕事の要領の悪さが際立ってしまうようなのです。

 

山田さんの役割

しかし、日数が経つにつれて仕事が忙しい時期になると状況は変わってきました

 

山田さんは仕事はできないものの、実はみんなから愛されている憎めない存在でした。

慌ただしい日々で空気がピリピリとしている中でも、変わらず依然としてみんなから愛されている、一緒にいるとどこかホッとするような、そんな空気を持っていました。

 

主任からよく怒られてはいたものの、山田さんと話しているうちに結局 主任の機嫌が戻っていつのまにか冗談混じりの会話になっている光景もよく目にしたし、たまに来る部長とも優秀な佐々木さんとも関係は良好で、非常にみんなと仲が良いことに気づきました。

仕事に失敗しても、山田さんの場合は最終的にはなぜか笑われて許されてしまうのです。

 

そういえば僕が最初にここに来たとき、隣に山田さんがいて、緊張して慣れない僕にときどき話しかけてくれ、非常に救われたことを思い出します。

 

決して自らチームを盛り上げるような器はなく、むしろ声が小さくマイペースでおっとりした性格なのですが、チームの隠れムードメーカーのような存在を確立しているように見えました。

 

仕事とチームの人間関係

チームというのは優秀な人だけが集まってもうまくいきません。

もちろん優秀なスペシャリストの知見を組み合わせることで、よりすばらしいアイディアが生まれるような高度な技術に神経質にならなければならない場面もあるでしょう。

 

ただ、そんな優秀さを必要とする仕事はわずかで、むしろ世の中のほとんどの仕事はそうじゃないもののほうが多いくらいです。

そうするとひときわ仕事が効率よく進んでいるチームは、人間関係の良好なチームではないでしょうか。

 

優秀な人だけで揃えてしまうと意見が衝突してうまくいかないことも多々あります。

だから、ある程度いろいろな属性の人で揃えたほうがうまくいく場合も多いのです。

例えば、あえてまだ仕事ができない新人や、空気を和やかにしてくれるムードメーカーのような存在、男性のやる気をあげるためにプロジェクトに女性を入れるという話も聞いたことがあるというくらい、人間の関わりは仕事に大きな影響を与えるのです。

 

そして山田さんは仕事はできないものの、誰よりもみんなの空気を掴んでいました

僕がつらそうにしていれば声をかけてくれ、仕事のやる気はなくても佐々木さんから振られた仕事はどんなことであっても文句のひとつも言わずにこなし続け、主任の機嫌が悪ければ険悪な空気を戻していました。

 

決して表で目立つことはないものの、裏でチームの空気を支配しているのは紛れもなく山田さんでした。

 

山田さんから学んだこと

そんなことを考えているとは知るはずもなく、山田さんは今日もお昼休みになると、ご飯を食べながら机の中からバイクの雑誌を取り出して、それを読んでいました

いつも眠たそうにしている山田さんはこれを読んでいる時だけ目が覚めるようで、食い入るように見ていました。

週末になると彼女を後ろに乗せて、お台場までバイクを走らせているそうです。

 

そういえば佐々木さんは彼女がいないとのこと。

山田さん曰く、仕事が忙しくなって別れてしまったという話でした。

 

仕事ができて責任感のある忙しそうな佐々木さん、仕事はできないけど自分のペースでこなしてプライベートを楽しみに暮らしている山田さん。

どっちが良いかと言われたら……うーん、迷います(笑)

 

まあどちらでも良いのですが、仕事で目立っている佐々木さんのほうが必ずしも良いわけではないということは一つ言えることかもしれません。

 

山田さんにふと気になって質問を投げかけてみました。

 

「仕事に対して焦りとかはないんですか?」

 

するとすぐに答えが返ってきました。

 

「え、ないよ? そんなこと考えてたら疲れるよ。」

 

そんなことを言いながらまたすぐにバイクの雑誌に目を向けて読みはじめました。

熱中しているからもう聞かないでくれと言っているように見えました。

 

そんなようすを見ていると、周りに流されず自分のペースを貫いている山田さんが、いつのまにか仙人のようにオーラを解き放っているように見えてきました。

 

僕は日々、不満もたくさんありましたが、確かに考えてもしょうがないことはしょうがないというものも多いのです。

少しだけ賢くてリスクを考えて不安になるくらいだったら、バカになって良くも悪くも将来のことを考えずに、来るときになったらやるというスタンスもありなんだと僕に教えてくれたのでした。

 

あまり欲を張らずに、自分の楽しみを励みにマイペースでやっていく。

こういう人が会社で細く長くやっていけるのかもなあ……。

 

以下の記事に続きます。

大企業で出世するには? 運で決まる仕事の人間関係【会社を辞めた話 第26話】